素朴
田舎育ちの私が都会に来た当時、私の容姿からか、よく素朴な人などと言われました。そんなことを思い出しながら素朴表現にチャレンジしました。人の手を加えない、大自然そのものを墨文字で表現しようと心がけましたが、思うように書けませんでした。
そこで、自分の思ったように書けない様、筆のてっぺんを持ち、運筆したのが上の作品です。4作品共に、違う筆で書いてみました。書の難しさを知った思いでした。納得できる作品にはなりませんでした。それだからこそ、50年以上書をしていても飽きないのだと思います。
若い頃の私の趣味は、墨文字を書くことと居酒屋に飲みに行くことでした。あの素朴さが好きでした。高級レストランと違い器や盛り付けまで、がさつに見えました。メニューを見ると、私は字が上手なんだと言わんばかりに学校の教科書のような墨文字を目にすることがありました。「この素朴な店に、この書の作風は似合わない。」
また、とても気楽に入れる混雑した店もありました。料理が美味しいのに加えメニューの墨文字は気取りのない、とっても素朴な文字でした。
「役を演じる墨文字の力」がそこにはありました。
【丹沢】楷・古隷的で素朴な表現
私の家から見える丹沢は、逞しさもなければ厳めしさもない、どこにでもある様な平凡な山です。その山を筆文字で表現するのに達筆さが逆に邪魔をするのではないかと思います。私は凄腕の書家・書道家ではありませんので、この様な素朴な字を書くとき心が落ち着きます。
【雪国のあぜ道】味わい深い楷書的・漢字仮名交じりで素朴な表現
都会的な美しさは捨て、ふる里を思い浮かべて創作しました。何の気取りも無い結体と運筆の中に力強さを加味しました。また、童心に返った気持ちも忘れないで創作しました。
昭和の時代、国定書き方手本を揮毫した西脇呉石氏の言葉「文字は心で書くもの」この言葉を私の座右の銘としています。
【春の草木】リズムのある楷書的・漢字仮名交じりで素朴な表現
単に素朴と言っても多種多様の表現方法があると思います。この筆文字ロゴは、筆の割れを気にせず独創的な結体で創作しました。
【穏やかな暮らし】漢字仮名交じり・はずし書きで素朴な表現
筆を持つ前はゆったりとした心であることを確かめてから、筆を持ちました。起筆から収筆まで一画一画をゆったりと、ただ筆先を表面に出さない様心掛けました。